幸洋汽船株式会社
人材育成と組織づくりで、乗組員一人ひとりの人生を豊かにしたい
活用テーマジョブ・カード活用
所在地愛媛県今治市別宮町8-2-35
業種運輸業
設立1965年3月
従業員64名
導入の経緯
乗組員の人生と会社の成長を両立させるために
当社は四国・今治を拠点とする海運会社です。3隻のタンカー船を所有し、日本国内へ質の高い安全な油輸送を行っています。1隻の船を動かすという共通の目的に向かって一人ひとりが力を発揮できるよう、「人が育つ会社」を企業理念に掲げ人材育成に力を入れています。
多くの乗組員は水産高校や専門学校を卒業し、他の仕事を経験することなく、この業界に入ってくるため、船の世界だけを見てキャリアを築いていく傾向があります。よって、乗組員として働けなくなった時に船に乗る以外の仕事を選択しにくく、仕事に縛られた生き方になりがちです。
また、「給料が陸上より高い」「家族を養うために」といった動機でこの世界に入ってきた人もいれば、キャリアを積む中で船長や機関長になることが目標になった人もいます。しかしながら、念願が叶い船長などになれても、「憧れの職位に就いた後に何を目指せばいいのか」といった声も聞かれ、キャリア形成に悩む乗組員がいます。
加えて、乗組員は限られた環境の中で業務を行うことから、他業界や他職種との接点が少なく、視野を広げながら自己成長を図る機会も不足していました。そのため、次世代を担う人材を育成し、長く働いてもらうためにも、乗組員が自らの仕事やキャリアを見つめ直し、主体的に学び、成長していく機会をつくることが会社としての大きな課題でした。
こうした背景から、当社は数年前から外部講師を招いた独自研修を実施してきました。当初は、研修への抵抗や反発もありましたが、コミュニケーションを中心に研修を続けてきたことにより、少しずつ意識が変わり、言葉の選び方が変化するなどの効果が現れ始めていました。さらに、もう一歩踏み込んだ取組を検討する中で、今治市が主催する合同企業説明会の参加を通じて、キャリア形成・リスキリング推進事業のことを知りました。乗組員一人ひとりが自分の価値観や強み、働く意味を改めて考える機会が必要だと感じ、本事業の支援を受けて、ジョブ・カードを活用したキャリアセミナーとキャリアコンサルティングを実施することにしました。
取組内容と効果
自身を振り返り、視野を広げることで、乗組員のキャリア意識が変化
本来なら同じような職種・階層のメンバーを集めることが理想ですが、当社の業務の性質上、現実的ではありません。そこで、船の定期点検の期間を活用して、船ごとにキャリアセミナーとキャリアコンサルティングを実施することにしました。4月に開催した第八幸洋丸では、若手からベテランまで幅広い世代の乗組員12名が参加しました。
キャリアセミナーでは、時代の変化に伴う海運業界の動向を踏まえ、一人ひとりがキャリアを考える必要性を共有するところからスタートしました。自己理解ワークでは、これまでの職業人生を振り返り、自分が大切にしている価値観や強みをジョブ・カードの作成を通じて整理していきました。「自分の現在地を確認できた」「自分がどんな思いで仕事をしてきたか再確認できた」などの声もあり、自分自身を振り返る機会になったようです。
キャリアコンサルティングでは、個別面談でキャリアの話をするのが初めての乗組員ばかりで、始める前は「何をするんだろう」と期待と不安の声がありました。しかし、実際に進めてみると、自分が何のために働くのか、これからどうしていきたいのか、働く意味や目的を捉え直し、これからのキャリアについて考える充実した時間として受け止められたようです。「仕事に対する考え方が変わった」「資格の勉強をしようと思った」という声も届きました。これまでは、この業界は特殊だから、乗組員とはこういうものだという固定的な捉え方がありましたが、少しずつ視野が広がり、主体的に学ぼうとする変化を実感しています。
当社はSNSを活用した情報発信を続けているのですが、今回のキャリアセミナーとキャリアコンサルティングについて、自ら感想を投稿してくれた乗組員もいました。自分たちの仕事や会社の魅力を自ら発信しようとする姿からも、会社に対する愛着や、会社を盛り上げていこうという意欲が芽生え、働くということに対する意識が少しずつ変化してきているように感じています。
こうした取組を重ねることで、乗組員一人ひとりが主体的に学び、成長しようとする姿勢が生まれ始めました。船という特定の環境で仕事をする乗組員にとって、こうした機会は、次世代を担う人材の育成に向けた大切な一歩だと考えています。今後は、10月に別船の乗組員約15名、11月に別船の乗組員約18名を対象として、同様の取組を実施していく予定です。
今後の取組
キャリア支援と組織づくりを通じて、人材育成を会社の要にしていく
今後は、キャリア支援を単発で終わらせるのではなく、継続的な学びの仕組みにつなげていきたいと考えています。セミナーは乗組員にとって学びの機会になりますが、当社の就業環境の性質上、いつでも参加できるわけではありません。そこで、船の上でも手軽に読めるコラムのような形で、今回の取組で得たキャリア形成の考え方や知識などを、会社側から定期的に発信していくことで、乗組員が主体的に自身のキャリアを考えられる環境づくりにつなげていきたいと考えています。また、この業界に限らず、様々なキャリアの考え方や視点に触れることで、乗組員が仕事と人生の捉え方について、少しずつ視野を広げていけるのではないかと考えています。
また、一人ひとりの状況やタイミングに合わせたコミュニケーションを増やしていきます。本人の興味・関心や強みを新たに発見し、今回作成したジョブ・カードに書き加えていくことで、現在の業務に誇りを持ちながら、将来を思い描く後押しができたらと思っています。
同時に、組織として乗組員のキャリアの選択肢を広げることにも取り組んでいきます。乗組員の中には、将来もずっと船に乗り続けたいと考えている人ばかりではありません。船を下りたときに何をしたいかを考えたときに、退職という選択肢ではなく、会社の中に、強みや興味を生かせる選択肢があることが重要です。そのためには、船上の仕事だけでなく、陸上業務など、一人ひとりの力を生かせる仕事や活躍の場を会社の中に増やしていきたいと考えています。そうした環境を整えることで、個人の経験や力量に頼って仕事を担う属人的な働き方から脱却し、長く当社で働き続けてもらえる環境をつくっていきます。
仕事を通じて視野を広げ、人生を豊かにしていけるような会社でありたい。本事業の支援を通じて得た知見を生かし、今後も乗組員一人ひとりのキャリア形成を支え、人材育成と組織づくりを着実に進めていきたいと思います。
